シャルロッテ横浜に捧ぐ

行きつけの店が閉店した。

厳密に言えば移転が決定しているので店自体が無くなる話では無いが、少なくとも行きつけだった場所が無くなった事は確かだ。

僕はそこにかれこれ1年半通ってきたらしい。感覚としては、それ以上の時間を過ごしてきた気すらする。それだけ、新鮮で、充実した時間を過ごしてきた。

今回は、その“場所”について筆を取りたい。

 

初めてそこの話を聞いたのはサークルの友人からだった。「綱島のゲーセンの上にメイドカフェがあるらしいw」と。綱島に住んでいながら、いつもこの街の中途半端さを自虐気味に語る奴だった。それが地元愛の裏返しな事はとっくに感じ取れていたが、今回に関してもこんなとこにあるなんて絶対ヤバイとこだろwってニュアンスの裏側に純粋な好奇心があったのは見え透けていた。そんな彼を鼻で笑ってあしらった覚えがある。

シンプルに、メイドカフェというものに興味が無かった。多分に漏れず、一生縁の無い世界なのだろうという認識で、そういった価値観だった。まず、第一に行ったことのある人種と関わった事すら無かった。それ故に非常にハードルの高い世界に見えていた。

クローズドな世界は外界から偏見を持たれるのはある種必然でもある。

ただ、きっとこの時の自分はまだ適合していなかった。というのが本質でもあると今では思う。

 

それから数年が経った。僕は大学院生にジョブチェンジしていた。単位も一通り取り終えると、先生と研究に専念する生活が始まった。研究チームは僕と助教の2人のみの特殊体制で、人と会話をする機会は極端に減った。おそらく、人生で1番人と会話をしない時期だったと思う。特に苦に思うことも無かったと感じていた一方で、心の何処かがすり減っていた部分も確実にあった。

そんな折だった。何とも形容しようが無い陰鬱とした感情に包まれた日があった。恐らく、どこか自暴自棄になっていた。それでも、堕ちるような真似をしたくないという理性も何処かで働いていた。

何故そこでそれが浮かんだのか、今でも謎は解けない。それでも、確かにあの日僕は地元にあるそのメイドカフェを調べて行くだけ行ってみようと単身で乗り込んだ。

エレベーターに乗っている時間、自分はこの箱にどんな異世界に連れて行かれるのだろうと胸の鼓動が聞こえる程に緊張しながら階数が上がるのを目で追った。

その店はネットカフェの店内の一区画が区切られてメイドカフェとなっていて、開いた入口にはドアはなく、立て看板とベルが置いてあった。

このベルを鳴らしたらもう戻れない、そんな事を思い逡巡する時間は永遠にも思えた。鳴らせていたのか定かでは無い程度に鳴らしたベルはどうやら本当に魔力を持っていたようで、すぐにひょっこりと可愛いメイドさんが召喚された。

それからの記憶ははっきり言ってあまり無い。端のテーブル席に縮こまって座って、とにかく僕は目線を合わせる事すら出来ない中沢山お喋りをした。会話が成立していたかは怪しいが。本当に見てられない有り様だったと思う。ただ覚えているのは振り絞って言った「可愛い」に喜ぶ笑顔の眩しさと、人生初のお絵描きオムライスに自信満々に描かれたカオナシと、帰り際に自分の口から無意識について出てきた「また来ます。」だった。自分の名前が書かれた人生初のメイドカフェのポイントカードをそっと大切に財布にしまった。

次にご帰宅したのはそのちょうど1週間後だった。

2回目も緊張で黒歴史と言った感じではあったが、店内の雰囲気を心なしか見れるようになった気がした。テーブル4つに5人掛けのカウンター1つのこじんまりとした店内はとても狭く、みすぼらしくも見えた。メイドカフェのスタンダードを知らないので分からないが、メイドカフェというものはどこもパソコンから直接YouTubeを流してBGMにしているのだろうかと疑問を抱いたりもした。メイドも客も少ない人数でこの店はつぶれないのだろうかと心配にすらなった。他の客達がメイドさん達と仲良く過ごす姿に自分は場違いなのではないかとアウェー感を感じたりもした。それでも、そんな事は初めは目についたもののすぐに気にならなくなった。

何故なら、それを補って余りある程にメイドさんが魅力的だったからだ。外見が最強に可愛いのは言うまでもない事だったし、依然として目を合わせられてはいなかったと思うが、仲良く話せるそんな距離感がそこにはあった。僕も馬鹿ではないので接客業の人の愛想だからという傷つかないように予防線を張っていたが、そんな疑いの目を潜ませるのが馬鹿馬鹿しくなる程に、彼女達は取り繕わず自然体の姿で接しているように思えるようになった。僕のご帰宅を喜んで笑顔で「おかえりなさい」と迎えてくれるメイドさんがいるこの空間は、僕の心に空いていた穴を埋める温かさを持っていた。気づけば毎週ご帰宅するようになり、1ヶ月経った頃には1枚目のポイントカードが埋まった。その調子でご帰宅が週2になり、週3回ご帰宅するようになった。どのメイドさんも違った魅力に溢れていて、一緒にいて本当に落ち着く人もいれば、目が離せない程好奇心をくすぐられる人もいた。

これだけ沢山温かい気持ちにして満たしてくれるメイドさん達に僕もお返しがしたい、彼女達を笑顔にしたいと言うのがご主人様としての根幹を成す感情になった。別に僕に何が出来る訳でもないので夢物語のような願望だったが、少しずつ楽しく話す中で笑顔を見れる事も多くなる内に、自分でも人の事を思いやる事が出来るかも知れないと。いや勘違いだとは思うけど、となりながらもほんの少しずつ自分に自信をつけられていったように思う。自分より後輩の新人メイドが入るときには、僕もこの場所の先輩として新しい家族のように快く迎え入れてあげよう。そして一緒に楽しもうと自分から笑顔を始めることも出来た。

一緒に過ごしたこの時間を切り取りたくて撮るチェキはいつも馬鹿みたいに照れた笑顔が浮かんでいて後から見ると絶対に笑ってしまうが、そんな時間も好きだった。自分のことを、人間のことを、世界のことを好きになっていくばかりの時間だった。

社会における人の幸せの形とはかけ離れている事は分かりきっていたし、後には形に残るものは無い事も理解していたが、紛れもない純粋な幸福がそこにはあった。それで充分だった。

そんな幸せがずっと続く内に、ご主人様達とも仲良くなる事が出来た。この場所を愛する人は誰もが良い人ばかりで、僕は全員大好きだった。

 

この場所は、紛れもない僕の帰る場所になっていた。

いつの日か、僕のご帰宅第一声は「おかえり」に返す「ただいま」になった。

この一年半で258回ご帰宅したらしい。ポイントカードも気づけばもう52枚目だ。

僕の人生最後のモラトリアムは斯くして贅沢に費やされた。後悔は1つもない。

初めに誘ってくれた友人には今では僕が笑い物にされる始末だが、それすら悪くないな、と思う。

 

辛いときも嬉しいときも傍にいてくれたメイドさん、そしていつもそこにあった温かい居場所には本当に感謝してもしきれない。ここがあったから乗り越えられたし、頑張れた事も少なくない。

 

足が全然入らなくて膝で押してズレがちなカウンターも、

頻繁にメイドの服に引っかかるトラップ達も、

チェキを撮る時公開処刑になるネカフェ受付前も、

YouTubeから流すBGMが頻繁に止まるボロいパソコンも、

あの狭すぎる以上に居心地の良すぎる空間の全部が最初は苦手で、今では愛おしい。

 

僕達の愛した小さなビルのネットカフェの片隅の空間はもう無いけれど、その思い出はいつも僕の心を温かくしてくれるだろう。

 

そして、これは終わりじゃない。この輪を広げてきたメイドとご主人様達の物語は舞台を変えてまだ続く。

たまにはちょっと変わっていたあの空間を思い出してメイドさんと笑いながらも、新しい家の事も思いっきり愛していきたい。

 

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それでは、また。

おやすみなさい。大好きでした。

シャルロッテ横浜

 

 

 

 

1年の記録とチェキの話

 

今日は8月22日。

 

今日で、かぐやさん、というメイドさんに出会って1年が経ったらしい。

だからなんだという事は特に無いのだけれど、まあなかなか人生で経験しない新鮮で濃い時間だったので雑に振り返ろうかなと、そして1年経った今日の感情を整理しておきたいなと思って文章を書きます。

もう主題からして壮大な独りよがりなのだけど、一応公開する予定なのでなるべく臭くない、ポエム過ぎない程度にやっていきたい。

目を通していただける方は生暖かい目で見守って、「オタクじゃんw」って嘲笑してくれれば幸いです。

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まず1年を振り返る前に僕がメイドカフェに通うにあたり自分に課したルールを説明しておきたい。

 

①推しを作らない

②2ショットを撮らない

ツイッターをやらない

 

ルール設定した理由はざっくり2つあって、

1つは予防線を張って自分を守る為。2つ目はこの空間を大切にするため。

②はわかりやすく①を避ける為の予防策で、

①、③は理由は腐るほどあるけど自分のリソースをあまり割いて私生活に影響を及ぼさないっていうのが1つ大きな理由としてあった。

この1年はなにかと重要な1年だったというのも背景にはある。自分の性格上一度決めたらやり切るみたいなところがあったので特に気をつけて予防線を張っていたつもりだった。

 

あと、初めに何となく感じ取っていたように、距離感だったりこういう線引きみたいなのはメイドさんにやらせたら終わりで、客側がしっかりするべきだという考えを持っていてそこに関してはかなり慎重になっていたし今もその考えは変わらない。

 

ただ、結論から言うと初めに作ったルールは現時点でほぼ*1破っているので僕の完全敗北なんだけど

 

 

このルールを破るきっかけとなったのが他でもない、かぐやさんだ。

 

僕が初めてルールを破ったのは忘れもしない、かぐやさんのバースデーイベントだった。

ここではあまりエモい事は省略していくつもりなので結論だけ言うと、当日の彼女の幸せそうな表情を見ていて、最後にスピーチを聞いてこうなった。

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最後の理性のタガを壊すために初めてアルコールを摂取して、その勢いでツーショットをお願いした。

 

「ツーショットは撮りません。おこがましいので、、、」と言っていた2時間後に手のひらを返しているのだから恥を知れという感じである。

 

ここまで自分の文章を振り返ってみて自分でも気づいたが、そう、今回はただのチョロいオタクのお話だ。内容は無い。申し訳ない。

 

ただ、あの日は本当に幸せだった。

彼女の幸せが伝播するように、僕も本当に満たされた気持ちになった。ツーショットをお願いして、一緒に撮ってくださるんですか?と向けられた笑顔が眩しくてこの人の笑顔には一生適わないな、ともなった。

そんな1日の最後の締めくくりに、こんなに心臓が暴れることあるか!?ってくらいドキドキしながら腕を組んで、人生で初めてのツーショットチェキを撮れた事に1ミリも後悔は無くて、このチェキを見返す度に温かい気持ちになれる。自分の顔は好きではないが、チェキに写っている馬鹿みたいに鼻の下が伸びて緩んだ顔したオタクをみると、お前どんなアホな面してるんだよwとウケながら、ちょっと泣きそうになる。

こんな風に思い出をたくさん形にして残したいな、と思わずにはいられなくなった。

ただ、あの日はあくまで特別な日だったから。

僕は再び、ツーショットを封印した。

次に来たハロウィンイベント1日目ではワンショットチェキをお願いした。

 

 

 

 

ハロウィンイベント2日目は、メイドの卒業を初めて経験する日だった。

僕と同じくらいにこのカフェに来たメイドさんで、よく会っていたメイドさんで、よく笑う人だった。

4ヶ月程ではあったけれど、思い入れはあったし、突然来た永劫の別れに感情の整理がつかずに当日を迎えた。

簡易的ではあったが、イベントの最後にスピーチの時間が設けられた。これまでの日々の思いや、これから先のこと、色んなことを語っていた。漫才コンビといじられていた同期2人組の下りで「相棒に相談したら辞めたくなくなると思って相談しなかった」と涙ながらに話すのを聞いて目頭が熱くなった。

 

ああ、本当にこんなにあっけなく終わるんだ。

終わりが必ず来るのがこの世界なんだと、限りある貴重な“今”の持つ意味合いを理解した。

 

スピーチが終わり、気づけば僕はかぐやさんにポイントカードを握りしめて出していた。

「これで、ツーショットをお願いします」と。

2度目のルール破り。

今回は酒で誤魔化すのではない、自分の手でルールを完全に破壊することを決意した。

本当にルールを破棄した瞬間だった。

下らない事を抜かして今をとり逃したら一生後悔すると痛いほどわかったから。一緒にいられる時間を記録に残したい、大切にしたいという自分の気持ちが何より優先すべきものだと判断した。*2

 

 

奇しくもこの日の彼女は警官のコスプレで、ルールを破った僕が逮捕された記録が出来上がった。

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それから先の日々は息を吸うようにツーショットを撮る日々で、財布の中に大切にしまっていたチェキも、次第に財布の厚みが倍になり破裂寸前になったくらいにはチェキ帳に移行された。今では2冊目も順調に埋まっている。

だが、相変わらずチェキに写る僕は鼻の下を2メートル伸ばしたオタク面を浮かべている。

もうしばらく、この間抜けな面を見て笑う日々を過ごしていたいなと、切に願うばかりだ。

 

 

 

 

最後にこの1年の記録。

 

チェキを撮った枚数

1021かぐやBD2枚

1030ハロウィン1枚(1sho)

1031ハロウィン(まどか卒)1枚(2sho)

1111ほそえBDあすかぐ1枚

1124 7周年イベ1枚

1209 ゆきんこBD1枚

1224クリスマス1枚

0111 巫女1枚

0217るかBD1枚

0224めるBD1枚、たまかぐ1枚、めるかぐ1枚

0310アスカ卒1枚、あすかぐ1枚

0317つばき卒1枚

0407令和記念1枚

0418学校1枚

0426まむBD1枚、ゆきかぐ1枚、かぐしお1枚

0501ロングメイド1枚

0526しおんBD1枚、かぐしお僕1枚

0602はちBD2枚

0616こまちBD1枚

0630アニヨコ3枚、めるかぐ1枚

0707奏BD2枚

0714める卒2枚、めるかぐ1枚

0723チャイナ1枚

計37枚

 

3杯オリカク等で写メを撮った枚数 32枚

頼んだオリカク 95杯

会った回数 100回

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:未だ推しについて言及した事は無いので①は守られている可能性が無きにしも非ず。

*2:今回は感情を優先して自分のルールを破りましたがカフェの方のルールを破る気は毛頭ありません。もし言動に気になる点があれば気兼ねなくご指導ご鞭撻よろしくお願いします。